今年8月のこのブログの記事で、コブシの果実を紹介しました。鞘(さや)から覗く赤い果実には面白い特徴があるのでまた紹介するとお約束していました。このところ、熟した果実が地面に落ちていることが多くなったので、その果実の特徴について紹介します。
博物館前庭のコブシの木の下には、こんなふうに枝ごと果実が落ちていることがあります。
これは、おそらくゾウムシの仲間が産卵後に切り落としたものと思われますが、その正体はまだつかめていません。今回はそれはさておき・・この赤い果実をゆっくりと鞘から引き出します。
すると、白い糸のようなもので鞘とつながっていることがわかります。
白い糸は細い繊維が集まったもので、5センチメートルほども伸ばすと切れてしまいます。
繊維を切らずにすべての果実をぶら下げて・・
これは、秋の自然観察会の定番の遊びです。ところで、この白い繊維のようなものはなんでしょうか。
植物学の用語では、珠柄(しゅへい)と呼びます。果実と植物本体をつなぐ、いわば臍の緒(へそのお)のようなものです。植物の種類によってこの部分はさまざまな形になりますが、コブシを含むモクレンの仲間は、だいたいこのような繊維状の珠柄を持っています。では、どうして珠柄がこのように伸びるのかと言うと・・よくわかりません。熟したからと言って、自然にこのようにぶら下がるのは見たことがありません。ちなみに、赤い果実を割ると、中から黒くて硬い種子が出てきます。
割るときに、果実からは柑橘系のちょっとよい香りがします。果実は丸ごと動物によって食べられるのですが、種子はフンに含まれてそのまま排出されます。ただ、大人気の果実かというとそうでもないようですし、珠柄がこうした動物散布(動物によって種子をひろく散布させること)で活躍する場面も無さそうです。結局、長く伸びるコブシの珠柄の役割というのは調べてみてもよくわかりません。
自然観察会で、コブシの果実の遊びを紹介するときは、「どうしてこんなものが付いているの?」という質問が来ないかと、いつもワクワクします。「わかりません」と堂々と答えられるからです。自然界にはまだまだわからないことがたくさんある、ということを伝えるのは、自然観察会の大切なメッセージの一つなのです。