前回取り上げた籠(かご)や笊(ざる)は、主に竹を細く割って編んだもので、竹なので軽く、曲げたりするのも簡単で編みやすいといった特徴があります。それに対して、桶(おけ)は中に入れた水分が漏れないように、木を組み合わせて丸い形に作ります。
最初の写真は、「水桶(みずおけ)」あるいは「水樽(みずだる)」と呼ばれるもので、何に使ったかと言うと現在の水筒(すいとう)に当たります(収集地・中央区上溝)。夏場の畑仕事などに持って行き、左側の竹筒をストローのように吸って水を飲みます。右側に見るのは穴をふさぐ栓(せん)で、ここから水を入れます。
相模原や周辺地域では、夏場のお祭りやお盆の時に酒まんじゅうがよく作られました。酒まんじゅうは、まんじゅう酒という甘酒のようなものを作り、それで小麦粉を丸めて蒸かして中にはあんこなどを入れたもので、夏場の御馳走として欠かせないものでした。
写真は、まんじゅう酒を作るのに使われた「酒桶(さけおけ)」で、炊いたご飯と水、麹(こうじ)を入れてしばらく置きます。女性はこの桶を大事にして、まんじゅう酒を作る専用の道具として使い、ほかのものは入れないようにしていました(収集地・緑区大島)。
水道が自由に使えるようになる以前には各家に井戸があり、井戸から汲んだ水を入れて運ぶのに使われたのが「手桶(ておけ)」です(収集地・南区新戸)。一般に相模原は井戸が深い所も多く、水に苦労した地域と言われますが、毎朝、子どもが井戸から水を汲み、手桶で水瓶(みずがめ)に運ぶのが日課だったという話もよく聞かれます。
次の写真は、博物館の多くの資料を保管している収蔵庫の中の様子で、いろいろな桶がさかさまにひっくり返して置かれています。これは、籠や笊をしまう時には、中に風がよく通るように上向きに置き、桶などは内側に風が当ると箍(たが)が緩んでしまうので伏せていたと教えていただいたため、手桶のように伏せるのが難しいもの以外は、なるべく収蔵庫でもそのように保管しています。
最後の写真も収蔵庫で、「醤油(しょうゆ)仕込み桶」です。かつては醤油も自分で仕込む家があり、大きな桶に小麦や大豆、塩、麹、水を入れて醪(もろみ)を作り、一年ほどたって絞ったものが自家製の醤油となります。この仕込み桶も、前の写真と同様に伏せて置いています。
私たちの身の回りにはさまざまな道具がありますが、容器を代表する籠と桶を見ても、それぞれの特徴に合わせた使い方や保管の仕方があったことが分かります。博物館では実物とともに、そうした情報なども同時に調査し、データ化するのも大切な仕事なのです。