収蔵庫の殺虫処理

昨年10月下旬、動植物資料収蔵庫内で標本整理の作業を行っていた相模原植物調査会の方が、押し葉標本にチャタテムシが発生しているのを発見してくれました。

標本に粉のようなものが散っています

チャタテムシは代表的な文化財害虫のひとつです。湿気と共に発生し、カビや乾燥した食品などを食べるため、通常は収蔵庫内のカビ発生のバロメーターのような虫なのですが、植物の押し葉標本も食べてしまいます。しかも、柔らかい花弁のようなところを集中的に食べることから、放置しておくと分類上の証拠として大切な花を粉々にされてしまいます。

チャタテムシの一種

原因は、昨年秋の長雨で、収蔵庫内が高湿度で高止まりの状態が続いたことによると思われます。収蔵庫は24時間空調で温湿度を調整していますが、どうしても外気の影響も受けてしまいます。
被害を受けた標本は順次冷凍処理をして殺虫しているものの、一度に冷凍できる量が限られているため、処理が追い付きません。収蔵庫内全体を一度殺虫した方が良いと判断し、殺虫剤を噴霧することにしました。市販されている燻煙剤では隅々まで行きわたらないので、専門の業者に委託します。

排気用のファンを設置しています

部屋を目張りするなどして密閉してから殺虫剤を噴霧、数時間くゆらせてから排気を行います。

標本棚を開けて殺虫剤を内部へ行きわたらせます

ところで、博物館など文化財を扱う機関では今大きな問題になっていることがあります。それは、ガスくん蒸に使用する薬剤や、今回使用した噴霧式の殺虫剤の多くが、今年度いっぱいで製造販売が休止となるのです。いずれの薬剤も強い毒性があることに加え、温暖化ガスとして知られるなど、人体や地球環境に対する影響が否めないからです。この問題にどのように対処するのかを考えるため、先週2月21日に東京文化財研究所で「ポスト・エキヒュームSの資料保存を考える」と題したフォーラムが開催されました。会場とオンラインの参加を合わせて1000人近い関係者が聴講し、関心の高さがうかがえます。当館からも学芸員が参加しました。
じつは、この問題は21世紀に入るころからすでに顕在化していて、農業分野で行われていたIPM(Integrated Pest Management:総合的有害生物管理)を博物館の資料保存と管理へ応用する研究や実践が推奨され、当館でも基本的にこの考え方を取り入れています。しかし、他の多くの博物館同様に「最終的にはくん蒸を実施する」というフェーズを維持していましたが、今後はそれが通用しなくなります。フォーラムの登壇者全員が強調されていたのが、日ごろの清掃、点検の重要性です。今後、殺虫処理という対処療法から日常の清掃点検を強化する方針へとどのようにシフトしていくか、差し迫った課題です。
(生物担当学芸員)

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