天文担当の職員から「掃除をしていたらアシダカグモの死骸が出てきたんですけど、いりますか?」と尋ねられました。普段からクモを話題にしていると、こんなふうに情報提供を受ける事がよくあります。
アシダカグモは、体長3cm程の徘徊性のクモです。屋内性で、ゴキブリを捕食するのでいわゆる「益虫」ですが、脚を広げると「CD盤ほどの大きさに見える」と言われており、あまり良い印象を持たれない生き物だと思います。
それはそれとして、この辺りではよく見かけるクモですし、既に死んでいるという事なので、普段なら「いらない」と即答するところなのですが、今回は「状態が良ければ欲しい」と答えました。というのは、以前にオス個体で展示用の標本を作ったことがあり、ペアになるメスの標本が欲しいと考えていたからです。そのオスがかなり大きめで、それと見合ったちょうど良い大きさの標本が手元になく、わざわざそのために新たな個体を捕まえるのも、ちょっと気が引けていたのです。
「状態が良ければ」というのは、クモは昆虫とは違って硬いキチン質に覆われていないため、死ぬと柔らかい腹部が乾燥してくしゃくしゃになってしまったり、逆に腐敗してしまいやすいからです。元の形のまま標本にするにはアルコールに浸ける必要があります。
果たして「これです」と渡されたのはオスでした。
残念。
ただ、まだ乾燥も腐敗もしていません。触るとびろうどのような手触り。生きて動き回っていたら、感触を確かめる事はできなかったでしょう。
よく見ると、左右の第4脚(一番後ろの脚)の色と長さが違っています。
クモは、一生のうちに何回か脱皮をしますが、特に小さい頃の脱皮前に脚を失った場合(怪我をした脚を自分で噛み切ることもある)次の脱皮で不完全ながら、脚が再生している事があります。このクモのように色も長さも違うという事は、かつてそういう事があったのでしょう。
これは教育的な標本になりそうです。
現状のままなんとか「びろうどの感触」を保存したいとも思ったのですが、あまり冒険をして失敗するよりも、素直に液浸(アルコール浸け)標本にする事にしました。時間を見て、展示しやすい形にしたいと思います。