縄文人の絵心は?

日頃、博物館の考古分野では、遺跡の発掘調査報告書が刊行された出土品の再整理作業を行っています。
現在は、平成12年に発掘調査された国指定史跡川尻石器時代遺跡(緑区谷ヶ原)の出土品を、いつでも活用できるように分類・整理し、収蔵庫に保管する作業を進めています。たくさんの縄文土器を整理していると、報告書にも載っていなかった興味深い資料がありました。それは、赤色顔料を使った「彩文(さいもん)土器」です。

写真アングルの下側に朱色で描かれている

小さな破片資料で彩色もやや薄いので、写真ではわかりにくいかもしれませんが、よく見ると土器の外面に朱色で交差する線や三角形状の線など、幾何学的な図形が描かれています。土器の内面を見てみると、彩文ではなく、彩色されて全体が塗られています。

内面は全体的に塗られている

朱色に塗られた縄文土器自体は、他の遺跡でも時折出土しますので、それほど珍しくはありません。同じ川尻遺跡でも、これまでの調査で赤彩された土器は出土しています。

赤彩された縄文土器【川尻遺跡平成19年調査出土品】

赤色顔料の原料には、ベンガラと朱(水銀朱)が縄文時代に利用されています。川尻遺跡の資料は成分分析されていないので、どちらかはわかりませんが、原料であるベンガラの鉱石などを磨り潰した石器も出土していますので、顔料の製造も川尻遺跡で行われていたようです。

赤色顔料が付着した磨石(すりいし)【川尻遺跡平成19年調査出土品】

縄文時代晩期の技巧的な土製耳飾りの破片資料には、色鮮やかな顔料が塗り込まれています。縄文人にとって「赤」は特別な色だったのでしょう。

縄文時代晩期の濃い赤色で彩る土製耳飾【川尻遺跡平成19年調査出土品】

今回改めて確認された、顔料を使って文様を描く資料は、市内ではほとんど知られていません。残念ながら限られた破片資料では、どのような文様だったのかはわかりませんが、土器をキャンパスにした縄文人の絵心を垣間見させてくれる興味深い資料でしたので、ご紹介させていただきました。また“掘り出し物”がありましたら、紹介していきたいと思います。

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