大型連休が終わった5月7日、市内緑区の保全緑地へ希少植物の調査に出かけました。目的はこちらです。
キンラン(ラン科)です。よく管理された雑木林に咲く野生ランの一種ですが、近年は生育環境の激減に加えて園芸目的の盗掘が重なり、市内の樹林でもごく限られた場所に少数が生育するに過ぎない希少種です。
ただし、上の写真の株は、ただのキンランではありません。下の写真は、普通のキンランです。
ランの特徴として、花弁のうち一枚は下に反り返っています。この花弁(かべん)を唇弁(しんべん)と呼びます。しかし、下の写真のキンランは、このようにどの花弁も唇弁と言えるほど反り返りません。こうした花の形態をペロリアと呼びます。
このペロリア現象のキンランには、唇弁にふつう見られる赤い筋(蜜標=みつひょう 訪花昆虫に蜜の場所を知らせるしるし)もありません。しかも、この型のキンランは花があまり開かないことからも、自家受粉によって結実しているものと思われます。
このキンランについては、ツクバキンランと品種名が付けられていて、まだ図鑑にも掲載されていませんし、分布はこの生育地の他には茨城県などごく一部の地域でしか知られていません。なぜツクバキンランが相模原市内の緑地にあるのか、理由はわかりません。でも、この緑地を管理されている市民の方が10年ほど前から「不思議な形のキンランがある」と気付かれていました。観察眼の鋭さに脱帽ですね。
この日は、ツクバキンランを調査研究されている他館の学芸員さんと一緒に、現地を訪れました。相模原市内のこの緑地では、最初に確認された茨城県内の自生地よりも、密度が高く生育しているようだとのコメントをいただきました。
この緑地には、ギンランもたくさん咲いています。
地元の方の地道な管理作業のおかげで、こうして多くの希少な植物が生育する場所となっています。キンランも1株ずつタグが付けられて、毎年の生育状況が記録されています。希少な植物の、さらに珍しい形態の品種が、どうしてこの地にあるのか、そして近隣の他の場所には無いのか、興味は尽きません。さらに広域的に視野を広げて、この品種の謎に注目していきたいと思います。