博物館では、これまで取り上げてきた桶や甕(かめ)のような食に係わるものをはじめ、明かりや暖房といった住まいに必要な資料とともに、衣生活に分類されるさまざまな資料も保管しています。今回は、その中でも女性の身づくろいや化粧に係わる道具を紹介します。
最初の写真は、左右に耳状の把手(とって)の付いた銅製の小さな「耳盥(みみだらい)」(収集地・中央区矢部)と言われるもので、お歯黒(はぐろ)を塗る時に使いました。
お歯黒をするのは結婚している女性のしるしであり、耳盥も婚礼道具の一つですが、南区下溝で明治末に生まれた人でも、話には聞いていたものの実際にお歯黒をした人は子どもの時でも見なかったとされ、今では珍しい資料の一つです。
化粧や髪型を整える時には今でも鏡を使いますが、古く鏡は、現在のような鏡面がガラスではなく金属製でした。次の写真は柄がついた「柄鏡(えかがみ)」で、右側は姿を映す鏡面、左側はその裏側で模様が打ち出されています。
この資料は東京都府中市の方から寄贈いただいたもので、昭和30年(1965)代まで緑区青根にお住まいだった家が所有していたと言います。
こうした柄鏡をかけるものが「鏡台(きょうだい)」です。古くの鏡台は、両手が使えるように柄鏡を掛けるようなものでしたが、ガラス製の鏡が普及すると、洋式の化粧台にならって全身を映して見ることができる姿見(すがたみ)の縦長の鏡を付けるようになりました。次の写真は緑区向原からの寄贈で、母親が結婚した際に購入したものです。
以前の女性は長く髪を伸ばして結っており、そのための髪をとかしたり髪飾りの道具も大事なものでした。最初の写真は「整髪用のコテ」(中央区田名)、二枚目は、上側に「櫛(くし)」、下側左は髪型が崩れたりするのを防ぐとともに飾りともなる「簪(かんざし)」、右が髪を巻き付けてまとめる「笄(こうがい)」です。寄贈者によると、明治時代に使われたとのことです(いずれも緑区大島)。