昆虫レストランの真珠

博物館駐車場のフェンスには、さまざまなつる植物がからまっています。そのうちのひとつ、ヤブカラシが花盛りです。マメコガネをはじめ、たくさんの昆虫が集まっています。

ヤブカラシの花は二色あります。ランタナ(七変化)ほど華やかではありませんが、やわらかな橙色と桃色の絶妙なバランスがとてもかわいらしい花です。花はたっぷりと蜜をたたえ、甲虫やハチなどたくさんの昆虫の食料となっています。そして、なぜ橙色と桃色かというと・・

花が咲き始めた当初は、四本の雄しべと外周に反り返った緑色の花弁が見えます。これは雄花期で、花は橙色です。しかし、わずか数時間で、雄しべと花弁が脱落してしまいます。すると、中心の花柱が伸びてきて、なんと雌花に変身するのです。

この時、花はいつの間にか桃色になっています。小さな花のドラマチックな性転換、驚きですね。
もう一つ、ヤブカラシには不思議があります。花柄や葉柄、葉の裏などをよく見ると、小さくて透明なつぶつぶがついています。

なんだろうと思って拡大してみても、正体がわかりません。虫の卵?いやいや、違います。ヤブカラシの汗?それにしては、表面がブツブツしていて、カプセル状に見えます。

これは、真珠体(真珠腺)と呼ばれるもので、ブドウ科などいくつかのつる植物によく見られます。なぜこんなものがつくのか、理由はよくわからないのですが、虫に対するサービスではないかと言われています。つまり、植物体そのものを食べられないように、食害虫を食べる虫を誘引してボディガードを任せているとか・・。
ヤブカラシは、庭の手入れの悪さの象徴としてビンボウカズラなどという別名があります。しかし、虫たちにとってはこの上なくサービス旺盛なレストランなのです。
(生物担当学芸員 秋山)

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