「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No.4・サツマイモ植え)

水田に乏しく、畑作が農業の中心であった市域では、特に五月節供の頃から畑や養蚕等の作業が本格的に始まり、6月にかけて多くの作業がありました。そのため、かつては「農の五月」などと言って「猫の手も借りたい」大変忙しい時期でした。

そうした時期の作業の一つに、サツマイモの植え付けがあります。冬場に作った苗床に種芋を伏せ込んでおき、そこから出たサツマイモの苗(芽)を五月節供過ぎに切り出します。

サツマイモの苗床
 苗の切り出し

 この苗を畑に植え付けるのですが、畑はまだ麦の刈り取り前で麦が高く育っており、麦刈りが行われるのは約一ヶ月後となります。

                  一面の小麦畑

 それではどこに植えるのかというと、麦のかたわらの少し高くなったところに、苗を「フナゾコ」といって船の底の形にさして、上から押したりしました。

                  サツマイモの植え付け
小麦の際(きわ)に植える

 実は、オカボ(畑で作る陸稲)も麦の間に蒔きました。

                  古くは肥料と混ぜてオカボの種を麦の間に蒔いた

 今回紹介した写真は、文化財記録映画第六作目の「相模原の畑作」時において、昭和62年(1987)5月24日に中央区田名で撮影されたものです。
映画では、基本的に稲だけを作る水田と違い、一つの畑で作物を組み合わせる畑作として、かつて作物の中心であった小麦とサツマイモ・陸稲の作業の流れを追っています。

それにしても、今の感覚からすると、まだ前の作物が残っている中に次のものを植えてしまうというのは少し驚きでしょうか。

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玄関から20歩の自然 その1 街路樹の根元

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、不要不急の外出をしないよう求められています。
家から出ないという生活が安全ではありますが、外気にまったく触れない生活を続けるわけにもいきません。そんな中で、お買い物途中などに少し立ち止まって見るだけで楽しめる自然観察について、少しご紹介します。題して「玄関から20歩の自然」。厳密に家の出入り口から20歩以内ということではないのですが、それくらいの場所にもこんな自然がありますよ、という意味でとらえてください。大人の足で約15メートル、子どもで10メートルくらいの距離です。
その1は、街路樹の根元です。実際に4月26日、市内中央区の歩道の街路、植込みの1カ所で見た植物です。まずはこちら、シロバナマンテマ。

シロバナマンテマ

花そのものは直径1センチメートルあるかないかの小さな植物で、花の付け根がぷっくりと膨らんだ独特の形をしています。形も不思議ですが、名前も不思議・・マンテマってなんでしょう?これには諸説あり、学名(ラテン語)がなまったという説が有力であるものの・・植物愛好家の中でも、謎の一つです。
シロバナマンテマに混じって生えていたのは、コバンソウです。

コバンソウ

イネ科の雑草で、穂の形が小判に似ていることから名が付きました。それにしても、穂の付き方がおもしろいですね。ネコに小判と言いますが、ネコがじゃれつきそうな雰囲気です。
こちらはその植込みの隅に咲いていたヒルザキツキミソウ。

ヒルザキツキミソウ

誰かが植えたのかな?と思うくらい可憐な花です。でも、これも雑草です。もともとは園芸植物でしたが、こうして路傍で勝手に力強く咲いています。
植込みの植物はまだまだおもしろいものがたくさんあるので、引き続きご紹介していきたいと思います。

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民俗分野ブログ「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No.3)

5月はまさにお茶の季節です。今回紹介するのは、昭和59年(1984)5月25日・南区古淵での製茶の様子で、撮影をさせていただいた家だけでなく、この家と親しかった中央区上矢部と淵野辺の方も加わって行われました。

 かつての農家の生活では、毎食後やおやつの時には必ず茶を飲み、客が来てもまずお茶を出しました。そのため茶はなくてはならないものでしたが、購入するものではなく、屋敷内や道路と畑の境などに茶の木が植えられ、1年分の茶を賄いました。

                   

 通常は、五月節供の頃に女の人が茶摘みをします。特に、2月の立春から88日目の八十八夜に摘んだ茶は喜ばれました。

                  

 積んだ茶葉は、かまどで蒸します。写真ではハヤブカシと呼ばれる丸い蒸かし器を使っています。

                  

 蒸かした茶葉を揉むのにはホイロを用います。移動式のホイロもありましたが、当家では土を練った固定のものを使っていました。このホイロの中で、炭を燃やして温度を取ります。写真では炭の上に藁を乗せて燃やしています。

                  

 実際に揉むには、ホイロの上に、木製の枠に和紙や後にはブリキを張ったジョタンと呼ばれるものを乗せ、それに茶葉を入れて両手で力を込めて揉んでいきます。アクで手が汚れる茶揉み作業は男の担当でした。

                  

揉んだ茶はフルイに掛けて選別し、その後、仕上げとして火入れをして完成です。できた茶は、乾燥しないように缶などに入れて保存しました。

                  

これまでは茶作りの様子ですが、新茶は仏壇に供えました(この写真はモノクロです)。また、かつて自宅で行われた結婚式では、嫁が来客者に茶をふるまう「嫁のお茶」で終わりとなり、結婚式の翌日などに、近所の家々に嫁を紹介する際にはお茶を持っていくなど、茶は嗜好品としてだけではなく、さまざまな生活の場面で登場する大切なものでした。

                  

第1回目で紹介した醤油作りのように、こうしたものを自分の家で作ることが長く行われていたことも、地域の歴史や文化を考える上で忘れてはならないことでしょう。

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民俗分野ブログ「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No.2)

5月に入っての年中行事というと、「端午(たんご)の節供」が思い浮かびます。第2回目は、平成元年(1989)の五月節供の写真を掲載します。なお、年中行事も神にお供えものをする機会ということで、ここでは「節句」ではなく「節供」と記します。

 教育委員会では、昭和57年(1982)度から平成6年(1994)まで、毎年さまざまな民俗を映像で記録する「文化財記録映画」を製作しており、毎回、多くの市民の皆様のご協力を得て撮影されました。
今回はその第8作目「相模原の年中行事」での撮影です。記録映画では、映像とともに写真も撮影しましたが、当時は記録用にモノクロ(白黒)のフィルムを使うことも多く、今回の紹介はカラー写真ではないことをお断りします。

下の写真は中央区上溝で、当時、ごくわずかに残っていた草ぶき屋根の家をお借りして撮影が行われました。梯子を上った人が、草ぶき屋根の上に何かをさし込んでいます。

さしているのは植物の菖蒲(しょうぶ)です。五月節供では風呂に菖蒲の葉を入れることが有名で、このほかに「菖蒲屋根」といって、菖蒲を屋根にさしたり、軒先に付けたりすることがありました。津久井地域からの報告もあり、広く行われていたようですが、撮影当時はすでにそうした言い伝えはかなり薄れていて、この写真は再現です。上溝などでは、昭和の初めころまではそうした風習が見られたと言います。

五月の節供というと、何といっても外に飾る幟(のぼり)です。よく見られる鯉幟のほかに、縦に長く、勇ましい武士などが描かれた外幟もありました。写真の中の小さいものは、悪霊や病気を払う神とされる「鍾馗」(しょうき)が描かれています。こうした鯉幟や外幟は男の子が生まれると、嫁の実家や親戚から贈られました。撮影は南区上鶴間本町です。

年中行事にはいろいろな食べ物を作り、五月節供を代表するのが柏餅(かしわもち)です。米粉を練り、小豆餡(あん)を入れて蒸した柏餅は、食べるだけでなく、これも親戚などから贈られた五月人形にも供えます。
上側の写真では柏の葉で包んでおり、下側はできた柏餅を人形にお供えしているところです。店舗で売られることも多い柏餅ですが、当時、手作りしていた緑区下九沢の方にお願いして撮影しました。

文化財記録映画は全部で13作品あり、そのテーマや内容は撮影当時に実際に行われていたものから、今回の菖蒲屋根のようにかつての様子を再現したものなど、さまざまです。
※文化財記録映画は、博物館でビデオテープでの視聴が、また、視聴覚ライブラリーでDVDでの視聴・貸し出しができます(現在休館中)。

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エナガのおしくらまんじゅう

鳥たちの繁殖期の話題、その2です。
博物館お隣の樹林地では、よく耳を澄ますと「チチッ」「チリ」という細く小さな声を聞くことがあります。そんな時は注意深く枝の上を探すと・・

枝の上にぎゅうぎゅうにとまっているのは・・

エナガの巣立ちビナがぎゅうぎゅうにとまっていたりします!
子育ての邪魔をしないように、そーっとヤブの影から撮影しているためちょっとわかりにくいのですが、いっちょまえに長い尾を数えると10羽います。同じ巣で生まれたヒナたちです。

ヒナのうちから尾が長いのが特徴です

鳥の多くは、巣立ってしまうと家族であってもくっつくのを嫌がるのですが、エナガは「おしくらまんじゅう」をしているかのようにくっつきあっていることがよくあります。いわゆる「めじろ押し」ですが、こちらは「エナガ押し」ですね。
こうして待っていると、親がせっせとエサを運んで来ます。食べたばかりの雛は目をつむって満足げですが、お腹が空いているヒナは懸命にアピール。

エサをねだるアピールのしかたで給餌の順番がわかるようです

10分ほど見ている間に、15回以上、エサを運んで来ました。子だくさんで親は大変!と思ってよく見ていると、給餌をしている成鳥が少なくとも3羽いました。この家族群にはヘルパーがいるようです。ヘルパーとは、つがいをつくれなかった若い個体や、その年に先に生まれた兄弟などが給餌を手伝うもので、エナガではよく知られている習性です。
このヒナたちも、次の繁殖の時にはヘルパーとして弟や妹の世話をしてくれるのかもしれませんね。

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コゲラの巣作り

野外では鳥たちの繁殖期真っ盛りです。ある日、森の中でコツコツコツ、コツコツコツ・・と音がするものの、音を立てているであろうキツツキの姿が見えません。音をたどって枯れかけた木をよく見ると、まん丸の穴が開いています。音がやんだと思ったら・・

穴から顔を出すコゲラ

キツツキの仲間のコゲラがひょっこり顔を出しました。
するとおもむろに、木屑をバッと振りまいたのです。

木屑を振りまくコゲラ

コツコツの音は巣穴を建築中で、木を削っている音だったのです。そして、たまった木屑を外へ出しているところに出くわしたというわけです。
コゲラは日本で最小のキツツキで、体はスズメくらいの大きさしかありません。枯れかけている木とは言え、小さな体で幹に穴を掘ってしまうのには驚きです。ところで、上の写真をよく見ると、目の色が真っ黒ではなく、青灰色です。その上の写真の目は真っ黒です。じつは、鳥には「まぶた」と眼球の間に「瞬膜(しゅんまく)」と呼ばれる薄い膜があり、青灰色に見えるのは瞬膜を閉じている状態なのです。水鳥が水に潜る時や、コゲラが木屑を飛ばす時のように、眼球を保護する時に使われます。下の写真は瞬膜を閉じかけているところです。

瞬膜を閉じかけているところ

まぶたが上下運動であるのに対して、瞬膜は水平方向に閉じます。鳥類のほかには魚類や両生類、爬虫類にも瞬膜はありますが、哺乳類の多くは退化しています(なぜかネコには残っています)。

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ウワミズザクラとイヌザクラ

先日、このブログでご紹介したウワミズザクラには、類似の近縁種であるイヌザクラがあり、同じ樹林内にあるということをブログの中でも書きました。
そう書かれると、どれくらい似ていて、どうやって識別するのか気になるところかと思いますので、識別点をご紹介します。
まずはこちらがウワミズザクラです。

ウワミズザクラ

そして、こちらがイヌザクラ。

イヌザクラ

よく似ています。
でも、花が咲いていれば決定的な違いがります。ウワミズザクラもイヌザクラも、水筒を洗うブラシのような花の集合(花序:かじょ)なのですが、この花序のついている枝に、ウワミズザクラは葉があります。

ウワミズザクラ 〇で囲んだ部分に葉がついています

しかし、イヌザクラの花序の枝には葉はありません。

花序の枝に葉はついていません

ただ、遠目にはちょっとわかりにくいですね。慣れてくると、イヌザクラの方が、花序の枝が葉が無いぶん短く、枝に花が埋もれた感じのうえ、花の白色度が低いので、より白く目立つのがウワミズザクラとわかります。
イヌザクラの花のアップです。

イヌザクラの花のアップ

すでに今、どちらも花期のピークが過ぎているので、そろそろ葉桜になってしまいます。そうなると、識別は葉に頼ることになります。ウワミズザクラはサクラらしい葉で、他のサクラとの見分けが難しそうです。

ウワミズザクラの葉

一方、イヌザクラはちょっと頭でっかちな感じの葉で、サクラっぽくありません。

イヌザクラの葉

これ以外にも、幹などいくつか識別点がありますが、いずれもちょっと慣れないと難しく、花期を逃すと識別が難しくなるのは他のサクラと同様です。

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ズグロオニグモ

ズグロオニグモの円網(昼)

橋の欄干などで見かける直径20-30cm位の円網。クモは見えません。

ズグロオニグモの円網(夜)

夜になって、隠れ場所から出てきました。
ズグロオニグモです。体長10mm程度で、市街地でもよく見かけます。金属製の柵などに円網が並んでいるのを見かけたら、このクモかも知れません。

ズグロオニグモ(メス)。頭胸部の中程から前端にかけて黒いのが特徴です。

このように人工物を好む種というのは、元々どんな環境に住んでいたのでしょうか。不思議な事にそれ以外の場所では見かけないので、想像もできません。それはそれで、面白いと言えるのかもしれませんね。

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キビタキ渡来

4月22日、博物館お隣の樹林地にキビタキがやってきました。
キビタキのオスは、黒、黄色、朱色、白と抜群の色彩センスで色分けされた羽色を持ち、しかも美声の持ち主です。

キビタキ(オス)

喉の朱色から黄色へのグラデーションが美しいですね。
まだ囀(さえず)りはフレーズが短くて本格的なものではありませんが、木々の枝を飛び移りながら軽やかに鳴いています。

キビタキ(オス)

もともと低山のちょっと暗めの森の鳥でしたが、近年、平地林に進出しており、博物館周辺でも繁殖しています。平地林の木々が大木化、古木化してうっそうと茂り、巣を作る樹洞(じゅどう=うろ)も多くなってきたからと考えられています。もう一つ、平地林は巣材として好まれるシュロ(シュロ縄に使われる繊維の部分を巣材に使います)が多いことも一因かもしれません。
博物館敷地内でも、野生ランのエビネが咲き始めました。

エビネ

植栽された株ですが、徐々に増えて、敷地内のいくつかの場所で花が見られます。
自生のものは雑木林などに生育しますが、近年、盗掘によってとても数が少なくなっています。

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職員ブログに「タグ」をつけました

いつも「相模原市立博物館の職員ブログ」をお読みいただき、ありがとうございます。
これまで博物館やその活動の様子を伝えて来ましたが、気が付くと2012年1月の開設から、8年以上の年月が経ち、掲載記事も2700件を超えました。
内容はお知らせ、報告、身の回りの観察など様々ですが、ブログという性格上、一度読むとそのまま過去に置き去られてしまう事が多いのですが、せっかくの蓄積を何かに活用できないかと考え、少々機能を追加しました。追加した機能は次の2つです。

1.「アーカイブ」を、一覧表示からプルダウンメニューに変更しました。「月を選択」の右の▽をクリックすると、年月が表示され、過去の記事をたどりやすくなりました。

2.「タグ」を追加しました。画面を下のほうにスクロールして「QRコード」の下をご覧ください。「タグ」があります。これは、個々の記事についているキーワードで、ネット検索で見つけやすいようにするためのものです。使われた回数の多いワードから上位50位を表示しているので、興味があるワードをクリックしてみてください。関連する記事の見出しと書き出しが並びます。

以上、ちょっとした機能追加(変更)ですが、家で過ごす時間の多いこの時期、当ブログを気の向くままにお楽しみいたければ幸いです。

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