北里大で講義

今日は午後、市内の北里大学海洋生命科学部の特別講義ということで、2コマぶんお話ししてきました。
日本の細菌学の父にして学祖である北里柴三郎博士像と、真新しい一般教養棟です。(実際の講義は海洋生命科学部のMB棟で行いました)

ちなみに、「きたざとだいがく」と発音されることが多いのですが、正確には「きたさとだいがく」です。その経緯もまた興味深いエピソードですが、ここでは割愛します。
講義の1コマ目は「博物館の調査活動から見た神奈川の自然」として、地域生物相を調べるインベントリー調査が神奈川では伝統的に充実していることと、そこに地域博物館がどのように関わっているのか、神奈川県植物誌の事例を見ながらお話ししました。

1コマ目の最後に、「大学は地域インベントリーの構築にどのように関わることができるか」というちょっと意地悪な質問を投げかけました。2コマ目のはじめに、学生さんたちは戸惑いながらもしっかり誠実に答えてくれました。

2コマ目は「地域の鳥の記録を読み解く」として、日本野鳥の会神奈川支部が進める神奈川県鳥類目録作成の実績や経緯、そこから見えてきた野鳥の増減のようすなどをお話ししました。1コマ目に、標本主義をとることから実物を扱う博物館と相性のよい植物相の構築と、2コマ目に現代において標本主義をとることが不可能な鳥類相をあえて対比的に取り扱い、生物相の構築が地域の市民の英知とパワーによって成立している現状を紹介しました。
「神奈川には何種類の植物がはえているの?鳥は何種類いるの?」というシンプルな問いに対する答えを出すことがこんなにも大変で長い時間と労力がかかっているのか、ということが若い人たちに理解していただけたらいいなと思います。
(生物担当学芸員 秋山)

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山の上にはいろいろありすぎて

とにかく山に登れば見るべきものがわんさかあります。ここまで3回に分けてアップしてきた北八ヶ岳シリーズも、きりがないのでこれで最終とします。脈略無く写真を挙げていくと・・
初日、大雨の中で出迎えてくれたイチヨウランです。

これでもか、というくらい降っていましたが、途中でこういう植物が出迎えてくれて、なんとか登り切りました。
ベースにした黒百合平に咲いていたミヤマクロユリ。梅雨の時期にがんばって登らないと花は見られません。

黒百合平と言うものの、今、北八ヶ岳のミヤマクロユリはシカの食害を防ぐために立てられた植生保護柵内のエリアでしか見られません。
高山には野鳥の数は多くないのですが、亜高山から高山を代表する鳥であるイワヒバリ。重たい望遠レンズをちょっとムリして持っていったかいがありました。

そして、ホシガラス。

ほかにも、東天狗岳山頂付近で強風をモノともせずに飛び回るアマツバメ(速すぎて撮影できず)や、チーリリーと体の大きさにぴったりのかわいい声で鳴きながら、シラビソの枝先を動き回るキクイタダキ(暗すぎて撮影できず)などにも出会いました。
高山性スミレの代表格、キバナノコマノツメ。

苔むす樹林だけが北八ヶ岳の景観の特徴ではありません。その名の通り、この世とは思えない不思議な風景が広がる賽の河原。オベリスクのような柱状の岩が不自然に突き刺さっているのも、天の作為を感じずにいられません。

青空をバックにするとこのように清々しい雰囲気ですが、巨大な石に覆われた斜面を舐めるように、下から濃霧が強風で吹き上げられる光景はなかなかの見物でした。

そして、これまた不思議な人々。こんな絶景の中、景色そっちのけで動物のフンを見つけて大喜びし、臭いをかいだり、中身(何を食べているのか)を観察しています。さすが!相模原動物標本クラブメンバーの鑑です。

信頼できる若いメンバーとの、楽しすぎる山行でした。下界の暑さに負けそうになると、山の上の冷涼な空気を思い出してやりすごす毎日です。
(生物担当学芸員 秋山)

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地質学講座5日目(最終日)

今日は地質学講座「岩石学入門」の5日目,最終日です.

これまでに配布した資料です.

今日は変成岩の話をしました.変成岩の分類方法や変成作用について話をしました.

いつものように,最後は標本を見ながらの解説です.


あっという間の5回でした.
今回の地質学講座は,岩石の多様性と名前の付け方,および,岩石から読み取れることなどを理解していただくことを目的としました.
私の勉強不足からわかりにくい説明も多々あったかと思いますが,参加していただいた皆様には熱心に聞いていただき,ありがとうございました.この場を借りてお礼申し上げます.
また,お手伝いをいただきました相模原地質研究会の皆様,ありがとうございました.

(地質担当学芸員 河尻)

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巻雲

今朝はよく晴れ上がって美しい青空と巻雲がたくさん出ていました。
もっとも高い空にできる雲の一つで、はけでさっと掃いたような筋状の雲を巻雲と言います。

博物館駐車場の上空。巻雲の変種のもつれ雲のようにも見えますが、巻雲の一種の鈎状雲の鈎の部分が重なり合い、さらに風で流れているようです。
博物館前の道路上空です。

いつもは狭い空を恨めしく眺めるのですが(広い空が何よりも好きなので)、今日は鈎状雲や毛状雲(巻雲の一種)の額縁がわりになってくれました。
(生物担当学芸員 秋山)

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咲かなくても華がある

北八ヶ岳の写真、もう少しアップしますがおつきあいください。
今回は、花のない植物「のようなもの」の写真です。最初に宣言してしまいますが、今回アップするイキモノの名前は何一つわかりません!
おっと、まずは正真正銘の植物である蘚苔類から、苔類です。薄暗い針葉樹の森の、しかも濃霧の中で輝いていました。

北八ヶ岳は「苔むす森」に覆われた山域として知られています。蘚苔類の研究者にも注目されるコケ類観察のメッカです。蘚類だらけ、と言えるくらい、倒木や岩の上にびっしりと蘚類が張り付き、ふっかふかの林床を形成しています。この林床こそ、北八ヶ岳の典型です。

蘚類の胞子がつまっている「サク」がぴょこぴょことつきだしてとてもかわいい!

そして、生物を扱う者にとって分類上の難物、地衣類です。植物でも菌類でもなく、菌類と藻類の共生体です。アカミゴケのなかまでしょうか。カップのようなものがにょきにょき。

カップ状に突き出した部分はよく似ているけど、同じものなのか、違うものなのかすらわかりません。きっと違うものなのでしょう。

岩についた派手な地衣類。誰かが描いたような模様を作っています。

こちらは天狗岳山頂近く。モノクロの地衣類が、なんだかブタさんに見えました。見えないかな・・。

同じく動物でも植物でもない、菌類。つまり、キノコです。蘚類とのベストマッチ!

もう、名前なんてどうでもいいやっ!って思ってしまうくらい、おもしろすぎる姿です。

こんなふうに、北八ヶ岳の森は天候に関係なくいろいろ楽しめます。一昨日のブログで霧の中の山歩きを「苦行」なんて書きましたが、実を言うと雨(一日目はちょっと強く降りすぎてつらかったですが)だろうと霧だろうと、こうした林床を眺めながら歩くのは楽しくてしかたありませんでした。
(生物担当学芸員 秋山)

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限界に生きる植物

昨日、このブログでアップしたコマクサは高山植物を代表する存在ですが、ほかにも高山植物と呼ばれるものがたくさんあります。寒冷な気候による土壌の凍結、積雪、強風などの理由から森林が形成できない(森林限界以上の)高標高地を植生から見て高山帯と呼びます。写真は北八ヶ岳天狗岳直下、天狗のお庭の森林限界付近のようすです。ちなみにこうした植生をハイマツ帯と呼び、研究者によっては高山帯と区別する場合もあります。

ハイマツの群落にコメツガが混じり、本来は高木になるオオシラビソがおかしな格好でまばらに立っています。

一年を通じて風がほぼ同じ向きで強く吹くため、枝が風下側にしか伸びないのです。
本州中部ではこのように、概ね標高2500m付近に、亜高山帯と高山帯の境目があります。天狗岳の肩あたりの森林限界内部のようすです。

亜高山帯を代表する高木の広葉樹であるダケカンバの幹がうねうねと曲がりくねっています。
亜高山帯のオオシラビソ林が標高が上がるにつれてダケカンバの比率が高くなり、さらにそのダケカンバも矮性化して人の背丈くらいになります。さらに上がるとハイマツ群落になり、場所によってはハイマツすらも群落を形成できないコマクサの生えるような真の(?)高山帯へと移行します。
ところで、天狗岳の高山帯で今回ちょっと衝撃的な植物に出会いました。

なんと、セイヨウタンポポです。在来のヤツガタケタンポポやタカネタンポポではなく、はっきりとセイヨウタンポポの特徴が見て取れます。風で飛ばされてきた種子がたまたま条件にマッチして開花したのでしょう。
標高が高くても、車道があったりして人工的な土地の改変が行われていれば咲いていることがありますが・・こんな原生の高山帯です。

これもまた限界を生き抜いた植物とはいえ、違和感は否めませんでした。
(生物担当学芸員 秋山)

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繭完成

先週から上蔟(じょうぞく=繭を作らせる場所への移動)していたカイコたち、すでに繭が完成しています。展示用の食品カップ蔟(まぶし)のようすです。

そして、展示用ではない蔟として、博物館ではこんなものを使っています。以前、当館ミュージアムショップで取り扱っていた小瓶(中に星砂などが入っているもの)が梱包されていた箱です。中の仕切りがちょうど蔟の大きさにピッタリ!この中に先週末、熟蚕を閉じ込めておきました。

昨日、バリバリと中身を開くと・・

中で移動して、2頭で繭をつくってしまった玉繭が3カ所できています。そして、うまくつくれずに死んでしまったものも1つ。
もう一つの箱を開けると・・

こちらはパーフェクト!すべての区画で1頭ずつ作ってくれました。といっても、全区画に1頭ずつで作らせるなどというのは育てている人間の自己満足に過ぎません。実際の養蚕道具の蔟はもっと大きくて、近代は回転式のものなど開発されて効率的に上蔟していました。当然、玉繭はかなりの確率でできます。その玉繭の利用法についてはまた後日アップしたいと思います。
(生物担当学芸員 秋山)

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女王への謁見

企画展の撤収を済ませ、カイコの上蔟(じょうぞく=繭を作らせる場所への移動)も完了したので、たまりにたまった振替休日をとって女王へ謁見してきました。
女王、それは、孤高の存在です。

高山植物の女王と称されるコマクサです。

気品のある咲き姿もさることながら、高山帯の激烈な風衝地にしか生育せず、他者を容易に寄せ付けない雰囲気こそ、女王の名にふさわしいと感じます。ここは北八ヶ岳と南八ヶ岳の中間に位置する根石岳(2603m)付近。北アルプスなどよりも一足先に咲くので、本格的な登山シーズン前にゆっくりと花を堪能できるのですが、当然ながら今は梅雨。前日、相模原動物標本クラブの有志と登山口から豪雨の中を登り、この日は濃霧の中まったく眺望のきかない稜線を、苦行のごとく歩きました。

そして、女王への謁見を済ませて強風と濃霧の中、来た道を戻ります。

東天狗岳(2640m)山頂への斜面に取り付いたところでなんとなくまわりが明るくなったように思い女王の居城を振り返ると・・

分厚い霧のカーテンが強風で瞬時に吹き飛ばされ、壮大なベールを勢いよくはがしたかのように硫黄岳の爆裂火口まで眺望が広がりました。

前日の雨も濃霧も、この一瞬のための舞台装置だったのかと思える絶景でした。
何度もこの場所に来ていますが、風景にここまで打ち震えるほどの感動を味わったのは初めてです。女王の魔法を味わえる山行となりました。
博物館の仕事とは関係ありませんが、もう少し八ヶ岳のことを書いていきたいと思います。
(生物担当学芸員 秋山)

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郷土出身の偉人 尾崎咢堂の著作の輪読会①~タイトルはガチガチですがワキアイアイです~~

本日、尾崎行雄を全国に発信する会と博物館の協働事業のひとつとして、尾崎咢堂の著作『民主政治読本』の輪読会を開催しました。
尾崎行雄(咢堂)は津久井又野出身で憲政の神といわれ、明治23年(1890)の第1回衆議院議員総選挙から25回連続当選 60年にわたり衆議院議員を務めた人物です。

輪読会開会・・・ちょっと人数が寂しいですが・・・

その著作『民主政治読本』はタイトルこそガチガチの難しいそうなイメージですが、今回の使用している平成25に出版した復刻版は文字も大きく、また内容もわかりすく編集され、一般の方にも大変わかりやすくなっています。

タイトルはガチガチですが安心してください・・・内容もやさしく字も大きめですから

参加者が1節ごとに順番に読み、講師の解説や参加者からの質問などを交えながら読み進めましたが、わきあいあいと楽しく輪読できました。
内容も現代にも通用するというか、むしろ現代にこそ尊重すべき考え方などが書かれていると感じました。ぜひ、現代の政治家の皆さんにもあらためて読んでいただきたいとの声が多かったです。
輪読会は7/10、7/17と、あと2回続きます。まだ、定員に余裕がありますので、ぜひこれからでも。博物館まで申し込みください。

雑談も多く、楽しく尾崎行雄のことを学べました

(歴史担当学芸員 木村弘樹)

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見学実習

博物館では時折、大学からの見学実習を受け入れます。学芸員資格を取得するためのカリキュラムの一環として行われるものが多く、バックヤードの見学を含むため学芸員が対応します。今日はお隣の町田市から、桜美林大学の学生さんたちが来館されました。
実物資料としての標本の収集保存、調査研究の意義や目的を説明したあと、バックヤードツアーに出発です。収蔵庫(は自分が説明しているので写真がありません)を見た後、地階のコントロール室と空調機械室へ。

大きな配管やボイラー、電源設備などの存在感、そして音にちょっと圧倒されたようです。
閉室中の特別展示室では、高い天井と広く大きな展示ケースの理由について当館元学芸員でもある担当の教授から説明を受けます。

ちょうど特別展示室のシャッター前で実施中の七夕イベントのようすを見学しました。

地域博物館におけるボランティアの存在の大きさを実感できたのではないかと思います。
通常の大学の見学実習よりも長くじっくり、午後までかけて見学されていました。
(生物担当学芸員 秋山)

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