霧雨降る中のタカの渡り

先月もこのブログでお伝えしたタカの渡りですが、市内の観察ポイントではその後も少数がチラホラと渡っていったようです。ただ、もう1回くらいはピークがあってもよさそうだったので、10月6日に観測に行ってみました。朝から霧雨が降るあいにくの空模様でしたが、なんと、そんな中で9羽のサシバが頭上に現れ、懸命に羽ばたいて上昇していきます。

霧雨の中、突如頭上に現れたサシバ

通常は晴れた日に谷間で発生する上昇気流に乗ってぐんぐんと上がり、東風に乗ってすべるように飛んでいきます。そのため、通常、雨天に渡りは行いません。しかし、さすがにこのところの曇天や雨天続きでしびれをきらしたのかもしれません。パタパタとはばたきつつ旋回し、タカ柱を作って懸命に西へと飛ぶ姿に、観測しているみなさんから思わず「がんばれー」と声が飛びました。

はばたきながら旋回して上昇するサシバ

さらに、1羽のハチクマも西へ飛んでいきました。天候が思わしくないぶん、低い上空を飛んでくれたので撮影するにはラッキーでした。

ハチクマは1羽で西へ

お昼前くらいから薄日が射すくらいの天候となり、上昇気流が出てきたのでしょう。午後1時を過ぎて遠く北の空に、サシバと思われるタカ柱が上がりはじめました。双眼鏡でやっと何かがいる、という程度でしたが、動きがまさしくタカの渡りです。あれよあれよと数が増え、3つほどのタカ柱ができて、その数は合計60羽以上になりました。数分すると、上空高い空にサシバの群れが見えてきました。さっきのタカ柱が西へと飛んできたのです。数十羽のサシバが次々と西へと飛び去って行きました。

西へ向かって一直線に飛ぶサシバ

タカの渡りの観察は、いつ飛ぶか、どれくらい飛ぶかわからないゲーム性の面白さももちろんですが、タカが大空を渡っていくダイナミックなシーンを見ると、理屈抜きで感動します。一度見たらやめられない、不思議な魅力に満ちた光景なのです。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 生きもの・地形・地質 | タグ: , , | 霧雨降る中のタカの渡り はコメントを受け付けていません

麻布大学野生動物学実習を行いました

10月5日、当館の実習実験室に学生さんがたくさん集まりました。これは、ご近所の大学である麻布大学獣医学部動物応用科学科からの依頼で、3年生の「野生動物学実習」を実施するためです。

25名の学生さんが集まりました

講座名は野生動物学ですが、フィールドワークに必要な、植物学や植物標本に関する基礎的なスキルを学ぶため、午前中は植物標本を扱います。博物館における生物標本の意義などのレクチャーを行った後、こんなスライドを提示しました。

一般にススキと呼ばれている植物には、別種であるオギも含まれます。両者はとてもよく似ていて、GoogleレンズなどのAIを使っても現時点では識別できません。そこで、どうやって判別するかを説明し、実際に穂についている小穂(しょうすい:粒の一つ一つ)を観察して判別してもらいました。

総(ふさ)の1本を曲げると、小穂が立ち上がって見えます

やり方がわかれば意外と簡単です。植物の見どころを押さえるトレーニングに続いて、雨の中、野外に出て標本を採集しました。

雨の中の植物採集

室内に戻って新聞紙に挟み、標本ラベルを記入しました。押し葉標本作製のほんの入り口までですが、この標本は仮押しの状態で持ち帰ってもらいます。
お昼を挟んで午後は動物標本のスケッチを用いた実習です。

全体ではなく、パーツをスケッチしてもらいました

それぞれ目の前の標本のパーツをスケッチします。場所を変えていくつか繰り返していく中で、スケッチという観察手法によって観察の客観性を得るトレーニングです。それぞれの標本の相違について考え、それをグループごとに共有します。このディスカッションも、客観性を保つための手段です。

グループで気づいたことを共有

生物科学を専攻する学生さんたちなので、生きものを科学的に扱うために必要な基本中の基本のスキルを学んでもらいました。みなさん熱心にそして真摯に取り組んでくれました。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 今日の博物館, 生きもの・地形・地質 | タグ: , , | 麻布大学野生動物学実習を行いました はコメントを受け付けていません

ウドの花

山菜として知られるウドですが、これは春から初夏に展開する前の葉の新芽です。その後、葉が盛大に開いてしまうとあまり関心を持たれることがないためか、花が秋に咲くことはあまり知られていません。博物館のお隣の樹林地の一部で今、たくさん咲いています。

ウドの花

下から見ると線香花火のようでかわいらしいですね。

下から見たところ

拡大すると、結構しっかりと花の形をしています。

ウドの花の拡大

ウドは、山菜の王様と称されるタラの芽(タラノキ)に分類上とても近い植物です。落城樹のタラノキと、多年草のウドという違いはありますが、昔から私たちが利用してきたなじみ深い植物群ですね。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 生きもの・地形・地質 | タグ: | ウドの花 はコメントを受け付けていません

秋の青いアサガオ

野外や庭先では、アサガオが目立つ季節になりました。入谷の朝顔市(7月初旬)のイメージからも、初夏の花のイメージが強いアサガオですが、多くの種類の花期は夏の終わりから秋にかけてです。この季節は雑草化したものを含めて、特に青いアサガオが目立つので、その種類についてちょっと整理しておきましょう。まずはこちらが最もスタンダードなアサガオです。

スタンダードな種類のアサガオ

アサガオの花色には、白からピンク、紫、青とさまざまな色が知られていますが、どの色でも共通の識別ポイントは、花を支える萼にあります。萼片の先がスッとまっすぐ上向きに細長く伸びています。

アサガオの付け根の萼片はスッと上に細長く伸びる

では、この時期に植込みや畑の周りなどで見られるこちらの小さめの花の青いアサガオはというと・・

マルバアメリカアサガオ

マルバアメリカアサガオという種類で、萼片がクルっと反転しています。花は小さくて、直径が4センチメートルほどです。

マルバアメリカアサガオの萼片はクルっと反りかえります

葉がふつうのアサガオのように3つに切れ込んでいる変種のアメリカアサガオとともに、野外で雑草化しているのがよく見られる種類です。
そして、園芸種として人気のヘブンリーブルー(天上の青)は西洋種と言われるアサガオの一種で、生垣や壁面などにつるをはわせているところでは、大量の花を咲かせています。

爽やかな水色が美しいヘブンリーブルー

こちらの萼片は上記2種に比べて無毛であることと、先が伸びないことが特徴です。花を上から見るとアサガオとそっくりですが、横から見るとすぐにわかります。また、葉は切れ込みません。

ヘブンリーブルーの萼

ヘブンリーブルーとよく混同されることもある、こちらも旺盛に花を付けています。

オーシャンブルー 萼片はやや細長く伸びてまっすぐ、無毛

こちらはオーシャンブルーという種類で、これまでの3種との決定的な違いは、宿根系(多年草)だということです。通常、アサガオの仲間は一年草が多く、花が終わると根を含めて枯れてしまいますが、オーシャンブルーは地上部は枯れても、翌年また芽を出します。ヘブンリーブルーとの違いは、「曜」と呼ばれる花の内側に放射状に延びる5本の筋に赤味があることです。朝咲いた花は、午後になるとだんだんこの部分の赤味が強まり、夕方には全体的に赤紫色になるので、その変化を楽しめるのも特徴です。
この他にも、雑草化するアサガオの仲間でマルバアサガオ(マルバアメリカアサガオとは別の種類!)や、ホシアサガオ、マメアサガオなどがあるのですが、また別の機会に紹介いたします。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 生きもの・地形・地質 | タグ: , , , | 秋の青いアサガオ はコメントを受け付けていません

【R6学習資料展見どころ紹介①】市民学芸員の力作・ジオラマと「いろはかるた」

いよいよ10月に入り、最近はようやく秋らしさを感じられる日が増えました。
先日お知らせしたとおり、当館では9月22日(日)から学習資料展「相模原70年と学校給食のあゆみ」を開催しています。

この横断幕と看板が目印です!

毎秋恒例の学習資料展ですが、本年は相模原市市制施行70周年記念事業として、1954(昭和29)年の市制施行から70年間の市のあゆみと学校給食にスポットを当てた特別な展示となっています。
今回から数回にわたり、このブログで展示の見どころを紹介しますので、すでにお越しいただいた方も、まだこれからという方も、楽しんでご覧いただけると幸いです。

それではさっそく、突然ですがここはどこでしょうか?一見すると教室の風景のように思います。

懐かしの教室…?

もう少し引きで見てみましょう…。

昭和20~30年代の教室を再現したジオラマです。

なんと、展示室の一角に作られた教室のジオラマだったのです。

学習資料展では、当館の博物館ボランティア「市民学芸員」との協働により展示をつくり上げています。今回の企画展テーマにちなみ、市制施行された昭和20〜30年代頃の学校の教室を再現したこのジオラマは、設計の段階から全て市民学芸員が制作しました。

図面もイチから市民学芸員が引きました!(※構想段階のものです。)

今の子どもたちにはあまり馴染みがない木製の机や椅子、ジオラマを構成するオルガンなどの一部は、実物の博物館資料を使用しています。
ジオラマは、特別展示室入口から順路に沿って進んだ先のすぐ右手側に見えますので、お越しの際はぜひじっくりとご覧いただきたいと思います。

続いて、ジオラマの次に登場するのが「相模原ふるさといろはかるた」のコーナーです。出張ミニ展示などで紹介しているため、すでにお馴染みかもしれませんが、この「いろはかるた」もまた市民学芸員の力作です。

【学習資料展版】相模原ふるさといろはかるた展

「相模原ふるさといろはかるた」では、市内47か所の名所・旧跡をかるたで楽しく遊びながら学ぶことができます。47のお題を選んだり、読み句や解説文を考えたり、絵札・読み札を1枚1枚手作りしたり…、市民学芸員によって7年もの歳月をかけて完成しました。

そして、やはりこちらも市制施行70周年を記念した特別版ということで、通常サイズの約8倍の巨大絵札と、かるたの題材となった場所や出来事の写真をあわせ、8つの句の今昔物語をお楽しみいただけるよう展示しました。

いろはかるたの句題、今昔物語

この「相模原ふるさといろはかるた」は、当館で貸し出し(※)を行っていますので、実際にお手に取ってご自宅や学校などでのご利用が可能です。ご興味がある方はぜひお気軽に当館へご連絡ください!

第2回目の見どころ紹介では、また別のコーナーを紹介します。

(歴史担当学芸員)

※在庫状況により、貸し出しできる数に限りがあります。

カテゴリー: 学芸員のひとりごと, 考古・歴史・民俗 | タグ: , , , , , , , | 【R6学習資料展見どころ紹介①】市民学芸員の力作・ジオラマと「いろはかるた」 はコメントを受け付けていません

【追加募集】考古学講座『相原遺跡群を探る』について

10月に予定しております考古学講座『相原遺跡群を探る』について、
定員に余裕があるため追加募集を行います。

日時:10月12日(土)午前10~12時 相模原市立博物館 大会議室
講義「相原遺跡群の縄文時代の様相」
講師:考古担当学芸員 長澤

10月20日(日)午前10~12時  相原公民館周辺
探訪「相原遺跡群の縄文集落探訪」
案内:考古担当学芸員 長澤

お申込は相模原市立博物館へ電話もしくは、メールで受け付けます。
電話:042 750 8030 学芸班長澤まで
メール:hakubutsukan@city.sagamihara.kanagawa.jp
締切:令和6年10月9日(水)夕方5時まで

縄文時代の住まい

お墓に使われた縄文土器

みなさまからのお申込をお待ちしております。

(考古担当学芸員)

カテゴリー: 未分類 | 【追加募集】考古学講座『相原遺跡群を探る』について はコメントを受け付けていません

間違えやすい植物

博物館のまわりでは今、カラスノゴマという植物が黄色い花をたくさん咲かせています。

カラスノゴマ

いろいろ想像させてくれる素敵なネーミングの植物なのですが、この名前、どうも言い間違えや覚え間違えが多発します。なぜかというと、すぐ隣にはこんな花が咲いているのです。

キツネノマゴ

こちらは、キツネノマゴ。ちょっとした草地の、どこにでもある雑草なのですが、同時に出てくると「キツネノゴマ?」「カラスノマゴ?」となってしまいがちです。
同様に、こちらの植物はよくある外来の雑草で、ヨウシュヤマゴボウと言います。

ヨウシュヤマゴボウ

観察会などで紹介すると、たいてい、「ヨウシュヤマブドウって言うんですか!なるほど、確かにブドウみたいな実がなってますね。」となります。いえいえ、ゴボウです。しかも有毒で・・と説明することに。さらにまぎらわしいのは、この有毒植物に近い仲間のヤマゴボウという薬用植物があるのですが、どちらもヤマゴボウ科で、根がゴボウ状になって似ているからというネーミングです。しかし、山菜などで売られる「山ごぼう」は野菜のゴボウに近縁の、キク科のモリアザミなどの根です。
観察会あるあるの聞き間違えといえば、こちらも。タケニグサです。

タケニグサ

「ああ、猛々(たけだけ)しく育っているからタケリグサ!」とリアクションされてしまいがちです。しかしこちらは、竹に似て茎が中空(ストロー状)だから、という由来のネーミングです。
いずれにしても、言い間違え、聞き間違え、読み間違えしやすいネーミングもまた、観察会の楽しいネタとして使っています。そんなやりとりをすることで、後で印象に残るからです。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 生きもの・地形・地質 | タグ: , , , | 間違えやすい植物 はコメントを受け付けていません

渡り鳥の季節

タカの渡りが本格化していることは先日のこのブログでもお伝えしましたが、タカだけではありません。市内の河原などでもちらほら、ノビタキの姿が見られるようになりました。

ノビタキ

中部地方の高標高地や北海道などの草原で繁殖し、冬は東南アジアなどで越冬する鳥です。この季節の数週間、市内の開けた河原や農地で見られます。
また、エゾビタキも同じころに見られます。

エゾビタキ

こちらは樹林地を好み、広い河原の樹木の多い場所や、丘陵地の樹林などに短期間滞在します。枝にとまり、飛んでいる昆虫を見つけるとパッと飛び上がって捕らえる動作を繰り返します。
こんな小さな野鳥たちが、千キロメートルを超えるような旅をするのが驚きです。市内でゆっくり休みつつ、栄養補給をしていってほしいですね。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 生きもの・地形・地質 | タグ: , , | 渡り鳥の季節 はコメントを受け付けていません

民俗分野実習6日目(9月21日)

こんにちは!民俗分野実習生です。

今日は私たち実習生が企画した「比べてみよう!旅のかばん」展の設営作業と展示解説を行いました。

設営作業では、解説パネルやキャプションを展示ケースの中に並べていきます。見る人の目線を考えながら配置しました。

斜めにならないように…

パネル同士の間隔を揃え、水平垂直になるようピンで留めていくところが難しかったです。

パネルを展示したあとは、実物資料を置いていきます。旅のかばんとして、トランクとキャリーケースを選びました。

展示完成!

展示解説では、今回の主なターゲットである子どもたちにわかりやすく伝えるように意識しました。

興味を持ってくれたかな?

11月10日まで展示しています。ぜひご覧ください!

今日で最後の博物館実習となりました。学んだことや経験を今後につなげていきたいと思います。

(令和6年度民俗分野実習生)

カテゴリー: 考古・歴史・民俗 | タグ: , , | 民俗分野実習6日目(9月21日) はコメントを受け付けていません

タカの渡り 本格化

先日のこのブログでタカの渡りが始まったことをお伝えしました。季節はしっかりと動いているようで、9月24日に渡りの観察ポイントを再訪したところ、見事な渡りの様子を観察できました。

滑るように上空を飛ぶサシバ

サシバの群が北東の風に乗り、頭上をグライディングしながら次々と西へと飛んでいきます。

西へ向かって飛ぶサシバの成鳥

その数、軽く50羽を超えました。同時刻に北側の遠い空にタカ柱ができて、数十羽以上が渡っていったので、かなりの数が同時刻に渡っていったことになります。
頭上でタカ柱を作った群れもありました。これは本当にドラマティックで感動します。

上昇気流に乗って旋回しながら一気に高空へ上がります

若鳥(おそらく今年生まれ)も渡っていきます。生まれて初めての遠距離飛行、無事を願うばかりです。

頭上を飛んで行ったサシバの若鳥

渡りはまだ続くと思われます。全国的な集計サイトを見ても、北から南まで、渡りが本格化している様子がわかります。しばらくはお天気と風向きを気にしながら過ごす日々が続きそうです。
(生物担当学芸員)

カテゴリー: 生きもの・地形・地質 | タグ: , | タカの渡り 本格化 はコメントを受け付けていません